zinma Ⅲ
シギは花畑の外に置いてあったバスケットを取りに行き、トクルーナの花畑の中で昼食をとった。
シギは自分の育った山のことを話した。
いまの時期の山の景色。
放牧している家畜たち。
ルシールはそれを楽しそうに微笑みながら聞いた。
「夕焼けをながめるのが好きで、一日中夕方になるのを楽しみに待ってた。」
ルシールは微笑み、
「シギさんはすてきなところで産まれたのね。」
と言う。
それにシギは一瞬黙り、ぽつりと言った。
「……あの山で産まれたわけじゃないんだ。」
その言葉にルシールが首をかしげていると、シギがルシールを真剣な目で見つめ、聞く。
「ルシールはなぜ2人だけで宿を?
ご両親は……いないのか?」
それにルシールは少し困ったような笑顔を浮かべ、
「…両親は、死んだの。
まだ私が10歳のときに、王都に花を届けに行ってそれで…
山賊に襲われたみたい。」
と言う。
シギはルシールから目をそらししばらく目の前の花畑を見つめてから、
「………僕もだ。
僕も……両親がいない。死んだんだよ。」
と言う。
ルシールが驚いたようにシギに顔を向けるのが視界の端に写るが、シギは前を向いたまま続ける。
「両親は僕を守るために僕を手放して、あの山の村に置いた。
僕は本当の両親のことなんか気にしないで生きてきたけど…
師匠の師匠が、僕の両親だったんだ。
師匠は2人のことをすごく尊敬していて、いろいろ聞いたよ。
2人の強さについても、誇り高い生き方についても。
そして、死んだことも……」
それにシギはわずかに目をふせる。
「両親の死に方はいろいろ複雑なんだけど、2人は後悔してなかった。
ただ僕を捨てたことだけは悔やんでいたみたいだけど。
でも、僕にはその気持ちだけで十分だよ。
愛されていたことがわかるだけで。」
それからまたシギは顔をあげる。