zinma Ⅲ



レイシアはまた腕をおろし袖を戻しながら言う。


「身体の調子はこんな感じですが、今日はただの瞑想が目的です。

力を解放するためにも、できるかぎり魔力を溜め込まないと。」



そして水から足をあげ、どうやっているのかそのまま湖面に足を置く。

一段上るようにひょいと湖面に立ち上がり、そのまま水面を歩いてくる。


しかしもうシギはそうしたレイシアの行動にもう驚くことなく、レイシアを待つ。




レイシアはシギの前まで歩き、言う。


「期限は明日ですが、もう決まったんですね。」


それにシギはうなずき、

「旅をつづけます。」

と言う。



レイシアは小さく笑い、

「そうだと思いました。」

と言ってから、続ける。


「今回のは、あなたの決意を強固なものにするための選択でした。

やはりあなたは今回の決断で、もうこの旅に迷いがなくなったでしょう。」


シギは黙って聞く。


「なぜこんなことをしたかというと…

これからあなたがたくさんのものを見なければならないから。

あなたはこれから、『呪い』を受けたたくさんの者たちの悲しい人生に出会わなければならない。

中にはこっちの心が折れそうになるほどひどい運命を受けた者もいます。

それをあなたが受け入れ、旅を続けられるように、あなたの意志を確認しました。」



それから湖のほうを向き、シギに背を向けレイシアは続ける。


「それから……
あなたはこれから私と旅を続けるかぎり、私の、『選ばれしヒト』の本性を見るでしょう。

『選ばれしヒト』はあなたが思っている以上に汚い生き物ですからね。

それにも耐えてもらいます。

例えば…」




レイシアはそこで一度言葉を止めると、不気味に小さく笑う。



「私はひどい話、ほんとに何を見ても何も感じない。

正直に言って、ミルドナの街で『呪い』によってたくさんの人が死にましたが、私はあの光景を見ても何も感じなかった。

ただ、人が死んでるなーってね。」




そして振り向く。

その顔には底の見えない笑顔が張り付いていて。

鬼気だ。







< 74 / 364 >

この作品をシェア

pagetop