zinma Ⅲ
シギはバスケットを持ち、ルシールを連れて、丘の上に一本だけ立っていた高い木の下に来た。
「木登り、できる?」
そう言うシギにルシールは驚いた顔を向け、
「できないわよ。
一回も登ったことないもの。」
と答える。
しかしシギは微笑み、
「大丈夫だよ。僕が教えるから。」
と言って、シギはバスケットを持ったまま器用にひょいっと一番近い枝に登る。
そしてルシールに手を伸ばす。
ルシールがシギの手をとると、シギの手に力がこもったかと思うと次の瞬間にはシギと同じ枝の上にいた。
「平気?」
そうシギに聞かれて、ルシールはこくこくとうなずく。
「……平気。すごい。すごく楽しい!」
シギはそれに微笑むと、また次の枝に登り同じようにルシールを引き上げる。
同じ要領でシギとルシールは木を登っていき、てっぺん近くまで登る。
シギはルシールを太い枝に座らせると、自分もひとつ下の太い枝に座る。
バスケットの中の昼食をルシールに渡し、
「良い眺めだね。」
と言う。
ルシールは昼食を受け取りながら、
「ほんとに最高!
こんなに高いところに来られるなんて!」
と言うと、すっかり慣れたように枝の上で立ち上がり遠くを見る。
「世界はほんとに広いのね。
この高さからも世界の果てが見えない。」
そのルシールをシギは見つめ、笑う。
「喜んでくれて、よかった。
少し登るだけでまったくちがって見えるのが、ほんとに不思議だ。」
そう言ってシギは昼食を頬張る。
ルシールも枝に座り、昼食を食べる。
2人は遠くの景色を指差し、その先にある場所を想像しながら、笑い合った。
そうするうちに夕方になり、2人は夕日をながめていた。
どちらからともなく黙り、夕日を見つめる。