zinma Ⅲ
ルシールが小さく言う。
「もう、一日終わっちゃった。」
「…ん。」
シギが答える。
「明日はここを発つのよね。」
「そうだよ。」
「気をつけてね。」
「……ありがとう。」
ルシールは夕日を見つめたまま、シギを見ない。
下にいるシギを見て、涙がこぼれないように。
だからシギがルシールを見て、いつも以上に真剣な顔をしていたことに、気づかなかった。
しばらく夕日を眺めて2人は宿に帰った。
昨日と変わらず夕食を4人で食べ、ルシールとルウはそれぞれの部屋に戻り、レイシアは最後の瞑想をしに外へ出て行った。
ルシールは少し小さくなった3つの糸の球をしまい、手を握りしめる。
そこでルシールの部屋のドアがだれかに叩かれる。
「はーい。」
と言ってルシールが駆け寄りドアを開けると。
「…シギさん?」
ドアの前にはシギが立っていた。
シギはいつものように優しく微笑むと、
「少し、時間ある?」
と聞く。
ルシールは自分の髪を乱れていないか気にしてなでつけながら、
「ええ。仕事も終わりましたから…」
と答える。
するとシギが一瞬目を泳がせるよう見えて、ルシールが不思議そうに見ていると、
「……着いて来てほしい所があるんだ。」
と、いつもの顔で言うので、ルシールはさっきのは気のせいかな、と思い、微笑んで、
「はい。」
と答えた。
ルシールは一度部屋に戻り、テーブルの上に大切に置いておいたものを握り、シギに着いて行った。
村の外まで歩いたところでシギが振り返り、言う。
「ここからは秘密で連れて行きたいから、目閉じて。」
ルシールはそれに小さく笑い、
「わかった。」
と言って目を閉じる。
昼間と違い、月光の光しかない夜の道は、目を閉じると目の前は真っ暗になる。
それに不安になっていると、シギが優しくルシールの手をとり、
「着いてきて。」
と言う。
2人は静かに歩き始めた。