zinma Ⅲ
シギと並んで路地の壁にもたれると、ナムはシギに言う。
「師匠、って呼ぶんですね。」
それにシギがナムのほうを向き、小さく微笑むと、
「はい。
尊敬に値しますから。
考え方も、それに……」
と途中まで言うが、そこでシギがすっと前を向き、もたれていた身体を壁から離す。
突然のことにナムが不思議に思っていると、
「……じき暗くなる。
師匠はまだ時間がかかるようですし、一度帰ります。」
そしてナムに振り向き、
「夕飯時の食堂はまた忙しいのでは?」
とまた微笑むので、不思議に思いながらも、ナムはうなずいた。
結局夕飯時が過ぎ、大勢の客がまた帰って行って数人しか食堂にいなくなっても、レイシアは帰って来なかった。
夕飯をすぐにたいらげたシギも、また酒場に戻ると言って出て行ったきりだ。
それにナムがそわそわと窓を覗いたりしていると、
「そんなに心配しなくてもあのお2人なら大丈夫だよ。」
と母が言う。
それにナムは、窓から外を見た状態から動かず、
「それもそうだけど……」
とだけ言う。
するといつの間にかナムの隣まで来ていた母が、にやにやと、
「なんだい。
やっぱりあの男前が気に入ったのかい?」
と言う。
それにナムは次は身体ごと母のほうを向き、顔が真っ赤になるのを感じながら反論する。
「ち、ちがうよ。
なんだか、同じ年頃だから気になるだけで……。
それに!あたしのほうが年上なんだよ?」
それに母はわかったわかったと言わんばかりに、腕を組んで大袈裟に何度もうなずく。
その会話が聞こえていたのが、キッチンのほうから父も声だけで、
「あの2人なら大賛成だよ!」
と叫ぶ。
「父さんっ!」
とナムが声を上げると、次は母さんが、
「あたしもあの2人なら喜んであんたを嫁に出せるねぇ。
礼儀もなってるし、男前で体格も良い!
文句なしじゃないか。」
と言って笑う。
それにもう耐えられなくなったナムは、
「もういいってばっ。
ちょっと様子見てくる!」
と言って宿を出た。