zinma Ⅲ
しばらく歩いたところで、シギが足を止める。
目を閉じたままのルシールもそれに足を止める。
「ここ?」
とルシールが聞くと、
「そう、ここ。」
とシギが答える。
「もう目、開けていい?」
そうルシールが聞くと、
「ちょっと待って。」
とシギが言う。するとその瞬間すごい風が巻き起こり、思わずルシールは目を閉じたまま手でシギを探す。
するとシギの手がそのルシールの手をふわりと包み込み、
「よし、もういいよ。
目開けて。」
それにルシールが目を開けると。
そこは昨日来たトクルーナの花畑だった。
さっきの風で舞い上がった綿毛が2人を包み込む。
「明日ここを離れる前に、もう一度見に来たかった。」
と言ってシギが微笑む。
月光を浴びきらきらと輝くまとめた髪をなびかせて微笑むシギの姿を見つめ、ルシールは泣きそうになる。
しかしそれを振り払うようにルシールは笑顔を作ると、
「あのね、シギさん。
私、あなたに渡したいものがあるの。」
と言って、シギの手を握っていないほうの手を差し出す。
そこには、きらきらと輝く髪紐が握られていた。
シギが驚いてそれを受け取ると、ルシールが言う。
「トーヤさんから買った丈夫な糸で作ったから、きっと長持ちするわ。
それに私の庭からとれた花のかけらも編み込んでおいたから、きっとあなたを守ってくれる。」
シギはそれをしばらく見つめ、ルシールから借りていた髪紐をほどき、それで髪を結ぶ。
そしてルシールを見つめ、言う。
「ルシール。僕は…」
しかしそれを聞かずルシールはシギに背中を向け、明るく言う。
「どこまで旅するのかわからないけど、風邪には気をつけてね。
私もルウも、元気にやっていくから。」
そしてシギに振り返り、笑顔で言う。
「だからシギさんも、元気で……」
「ルシール!!」