zinma Ⅲ



腕の中のルシールが少し動くのがわかる。

しかしシギは少し力をいれ、さらにルシールを強く抱きしめる。


「絶対に、帰ってくる。

ルシールに会いに、帰ってくるから。

だから…

だから、それまで待っていてほしい。」



ルシールが身体の力を抜く。

それにシギは一度ルシールを離し、顔を見る。

ルシールの顔はもう涙でぼろぼろになっていた。


そのルシールのうるんだ瞳をまっすぐに見つめ、シギはもう一度たのむ。


「待っていてほしいんだ。その時まで。

待っていてくれるか……?」



ルシールはシギの目をじっと見つめる。

涙を流しながら、シギの金色の瞳の底を見るように。




何も聞こえない、2人だけの長い一瞬。




ルシールは悲しげに目を細め、しかし口には微笑みを浮かべ、小さく、しかしはっきりとうなずいた。




それにシギが一瞬動きを止める。


ルシールはうつむき、

「かっこわるいな、私。」

と言って、頬をつたう涙をぬぐおうとする。


しかしそれよりも先にシギの手がルシールの頬えと伸び、優しく涙をふく。


それにルシールが顔を上げると、シギは今まで見た中で一番優しく、そして悲しい微笑みを浮かべていた。

そしてその細められた瞳から、一粒の涙が、シギの頬をつたう。



「ルシール…」


そう呼ぶシギに答えるようにルシールはシギの頬の涙を優しくぬぐい、そのままシギの頬に手を当てる。



「私も愛してる。
あなたを愛してるわ、シギ。」




その言葉と同時に、シギが左手でルシールの腰を引き寄せる。


お互いに求め合うようにして、2人は唇を重ねた。



シギは右手でルシールの髪に優しく手を通す。

ルシールはシギ胸板に手を添え、シギを受け止めた。



まるで1つになるように身体をぴったりと寄り添わせ、何度も唇を重ねる。






月光が明るく照らす真っ白な花畑の真ん中で。




2人は泣いた。







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