zinma Ⅲ
「あ、そうでした。」
突然そう声をあげるレイシアにシギが振り向くと、レイシアが立ち止まっているのでシギも立ち止まる。
「ししょ……」
「静かに。」
レイシアはシギを黙らせると、指をパチンと鳴らして魔術を発動する。
空気の振動が調節され、レイシアの声はシギにしか聞こえなくなった。
『あなたにひとつ、言っておかなければならないことがありました。』
そう言い出すレイシアに眉をよせると、レイシアは歩きはじめながら口を動かす。
周りの人間には、普通の会話をしていて人混みのざわめきで声が聞こえないだけ、と見えるのだろう。
『まあ今さらなんの問題もないとは思いますが……
王都に入ったら、あなたは極力王城には近づかないでください。』
「それは………なぜです?」
『わかりませんか?』
レイシアが横目でシギを見つめる。
『あなたはルミナ族です。
王都の一般市民にとっては、ルミナ族なんていうのはただの伝説のようなものですが…
軍の上層部の間では、ルミナ族は十数年前まで、王家に仕えていた重要な存在であり、禁忌です。
カリアとファギヌのことを覚えているものも多いでしょう。』
「それは…………」
『あなたはカリアに似すぎている。』
レイシアの言葉に、思わず首まで出ていた言葉を引っ込める。
レイシアはシギの反応に満足したようにシギから視線を外して前を向くと、また口を開く。
『あなたがルミナ族の生き残りだとわかってしまっては、これからがやりにくくなります。それは避けたい。
ただでさえ、あなたのその髪の色は特殊です。
その紺色の髪。』
そのレイシアの言葉に、シギは自分の視界に映る前髪を見つめた。
「この髪が?」
『はい。まあキニエラ族がそんなことを知るはずはありませんが……
その紺色はルミナ族にしか有り得ない色なんです。魔力が高いものほど、美しく輝くと言われる色が、紺色。
軍の上層部は、昔、ルミナ族を探していたころには、その紺色に近い人間はすべて処刑していたほどです。』
「…!」
『今はそんな馬鹿みたいなことはしていませんが、不思議がられることは確かですから……気をつけなさい。』
シギがそれにしばらく黙り込んでいると、突然レイシアが何かを見つめて目を細め、立ち止まる。
シギがそのレイシアを見て怪訝な顔をし、その視線の先を見つめたところで、それより早くレイシアがシギの目の前に回った。
『もうひとつ、あなたに言っておくべきことがあります。』
無表情にそう言うレイシアに、シギは黙ってレイシアの言葉を待った。