zinma Ⅲ
『あなたには、覚悟をしていただかなければなりません。』
「覚悟………?」
『そう、覚悟。
あなた、つまりルミナ族の末裔のあなたが、キニエラ族の都に立ち入る覚悟です。』
「それはもう………」
『できていますか?
ですが、まだ甘い。』
さすがに立ち止まって話し込む2人に、少しずつ視線を向ける往来の人々に気づき、レイシアがシギに合図をし、街道の脇の森を見つめるように横に並ばせる。
森を見つめたまま、レイシアが続ける。
『あなたはまだわかっていない。
あなたはルミナ族。
かつてキニエラ族によってこの地を追われ、さらには皆殺しにされた一族の末裔なんです。
そして私たちが今から向かうのは、そんなルミナ族とキニエラ族の因縁の地。
もちろん、王都の市民にはなんの罪もありません。ルミナ族を追いやったのは彼等の祖先であり、彼等ではない。』
それにシギはますます怪訝な顔をして言う。
「では、何の覚悟がいるんです?」
それにレイシアは静かな顔でうつむき、小さくため息をつく。
『あなたが………真実を知る覚悟です。
ルミナ族の滅亡は、過去の話ではない。つい最近の話なんです。
今も軍には、あなたのご両親を死に追いやり、村を焼いた人間が何人もいますし、現国王が直令を出した。
あなたはおそらく、真実に触れてしまう。それは、避けられません。
軍の闇は深い。
ルミナ族に関係ない闇も、たくさんあります。』
そこでレイシアがシギのほうを向き、静かな、まっすぐな瞳でシギを見つめた。
『それらを知っても、憎しみに駆られることがないよう、覚悟をしなければならない。
人の欲望という名の罪を目の当たりにしても、あくまでも私たちは人間ではない力を持った異なる存在であり、傍観者である自覚をしなければならない。
その覚悟が、できますか?』
シギは思わず口を閉ざしてしまった。
キニエラ族を憎むつもりはない。
しかし、両親と、ルミナ族を殺した人間を憎まないというのは、嘘になる。
だけど……
「はい。」
『本当に?』
「はい。」
『…………』
「お願いします。」
ここが、これからの旅を表す場になると思った。
人間に絶望し、人間から離れた師匠に着いていくからには、こういう闇に触れることにはなると思う。
その、第一歩だ。
『よろしい。ならば、さっそく見せましょう。』
「え?」
『人間の闇を。真実を。』
そう言ってレイシアはシギの横からどき、道の先の、ある場所へと目を移した。