zinma Ⅲ






街道の先に、馬車が現れたのだ。

かなり大きめの馬車。


それもただの馬車ではない。


何か装飾品がついているわけでもないただの大きな木箱といった様子の、ひどくさびれた見た目。

しかしその馬車のまわりには何人もの騎兵がついている。



その物々しい雰囲気に、まわりの旅人や商人の人混みも自然と少しよけながら進んでいる。



「もしや、王都の兵士では……?」

シギがそう言うが、レイシアはそれに何も答えない。



レイシアはそれを見ても動じることなく、むしろ小さく笑うと、


「本当に………なんというタイミングでしょうか。

こんなにも早く出くわすとは…」

とつぶやく。



それにシギが目を細めて馬車を見つめ、またレイシアのほうを見つめると、レイシアはシギを真っすぐに見つめ返して言った。



「気を引き締めてください。

これからあなたは、人間の本質を見ます。

どうか、心を乱さないよう…」



それだけ言うと、レイシアは馬車に追いつこうとするように足を早めた。

シギはただただ怪訝な顔をしてその背中を追った。














「こんにちは。」




レイシアはいつもの透き通る声で、何気なく騎士のうちのひとりに話しかけた。


騎士は動じることなく目線だけでレイシアを確認すると、すっと目を細める。

「………旅人か。」


低く威厳のある声。

その様子や雰囲気から、シギにも彼がかなりの手だれであることがわかる。


明らかにこの馬車の周囲だけ、異質な雰囲気を放っていた。

賑やかな街道ではあまりに目立つ静寂と、緊張。



しかしレイシアはそれに気づいてないかのようににこにこと微笑み、


「ええ、まあそんなものです。」


と、騎士に答えた。



そのレイシアの態度に騎士は少しだけ眉をひそめると、レイシアをまったく気にしないかのようにまた前を向いて淡々と言う。



「見てわかるだろう。
我々は王都の騎士だ。
むやみに話し掛けるな。

何か用があるのか?」



「いえ、ただこの馬車はどの貴族の方へ届けられるのか気になりまして。」




騎士の威圧感を跳ね返すかのようにニコニコ微笑んだまま言ったレイシアの言葉に、金属の音が響いた。





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