zinma Ⅲ

酒場の災難




ナムは宿を出ると、2人のいるはずの酒場へと向かった。

大通りは夜であっても賑わっていて、土産物屋は片付けられていたが、夕飯の温かい食べ物を並べた屋台にたくさんの人が集まっていた。

おいしそうなスープや焼いた羊の肉の匂いが立ち込めている。



その大通りを抜け路地へと進み、酒場の前まで来ると、昼間よりも大きな騒ぎ声が響いていた。


柄の悪い旅人や、腕自慢のものも混ざっているらしく、昼間よりも荒々しい雰囲気を放っている。


酒場まで来たはいいものの、酒場に入る勇気もなく、ナムはただその場でたたずんでいた。


路地は暗く、所々に酔っ払っていたりまったく動くことのないものが座り込んでいて、なんとなく恐ろしい。


それに考えなしにここまで来たことを後悔して、ナムは大人しく帰ることにした。

ため息をついて帰ろうと振り返ると、すぐに人にぶつかる。

「す、すみません。」

と謝ると、すごい力で腕をつかまれる。


「……っ。」


その突然の痛みに無言の悲鳴を上げ顔を上げると、そこにはナムよりもはるかに大きな男が立っていた。

向きだしになった恐ろしく太いうでと、見るものをすべて震え上がらせるような厳つい顔には傷跡がいくつもついている。


気づくとその男の後ろには十数人の同じようながたいの男たちが立ち、にやにやとナムを見ていた。


それにナムは、震える声をなんとか絞り出し、

「ぶ…ぶつかって、ごめんなさい。
腕…は、離してください。」


そう言うと、ナムの腕を掴んでいる男は何も言うことなく口の端を吊り上げ、いやらしい笑みを浮かべる。



そのまま何も言わず、男はナムの腕を掴んだまま酒場へと入って行く。


「……っ。やっ…!離して……」

ナムはなんとか抵抗するものの、男の手はびくともしない。



男が大きな音をたててドアを開け放つと、一瞬酒場にいた全員の視線が男に集中する。





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