zinma Ⅲ
いつの間にか、騎士は目にも止まらぬ早さで剣を抜き、レイシアの首へと当てていた。
それにそれまで静かに歩みを進めていた他の騎士たちも剣を抜き、馬車を止めるとレイシアを囲む。
それにシギは少し驚いてレイシアを見る。
しかしレイシアはまだ微笑んだままで、静かにレイシアを見下ろし、しかし殺気を放ちながら言う騎士を見上げていた。
「……なぜ貴族への馬車だと思う?」
騎士のさっきよりも明らかに圧力のこもった声に、シギは気配を消して人混みに紛れたまま、冷や汗を流した。
シギの疑問もそれだった。
こんな質素な馬車が貴族のものだとなぜ思うのだろうか。
しかしレイシアは当たり前と言わんばかりの顔で、
「この馬車に乗っているモノも察しがつきますからねぇ。
こんな馬車を欲しがるのは貴族だけでしょう。」
と言い放つ。
それに思わず動こうとした数人の兵士をレイシアの目の前の騎士が手で制し、レイシアの首に当てた剣をわずかに動かしレイシアの顔を上げさせた。
「………お前。何者だ。」
騎士は凄みのある低い声でそう言う。
レイシアはというと首に当てられた剣が見えてないのかと思うほどまったく動じず、にこにこしたまま微笑む。
「何者といいましても、ただの旅人ですが……」
「フードを取れ!!」
その声をさえぎるように騎士が言うので、レイシアはやれやれといった様子でゆっくりとフードを取る。
それまで隠れていたレイシアの顔が日の光に照らされる。
色白の肌が光を浴びてまぶしく輝き、プラチナ色のやわらかいくせ毛がフードからふわりとこぼれ、きらめく。
その旅人らしからぬ美しい容姿に騎士が目を細めた。
「…………子供か。」
「よく言われます。」
「やけに口のきき方を知らん子供だな。」
「ははは。」
「………どの部族の出だ?」
「ははっ、旅人に部族も何もないでしょう。その部族を捨てた放浪者なんですから。
もう忘れましたよ。」
渇いた笑いをふくめてそう言うレイシアに、それに騎士はしばらくレイシアを射抜くように見つめてから、すっと剣を引いた。
「……髪の色からするとキニエラ族に列なる部族だろう。
その血に免じて今回の非礼は許す。
このまま立ち去れ。」
騎士はそう言ってまわりの騎士にも合図を出し、構えを解かせる。
それをレイシアは見つめてから、口を開く。