zinma Ⅲ
「その馬車の中の人たちはどこから連れてきたんですか?」
それにまた馬車を進め始めた騎士が馬を止める。
まわりの騎士もまた馬車を止め、こちらの様子をうかがうように振り向く。
騎士はまた振り向いてレイシアをにらむと、軽やかな手捌きで馬を操り、レイシアの目の前に戻ってきた。
「……殺されたいのか?」
静かな目でレイシアを見下ろし言う騎士に、レイシアはにっこりと微笑む。
「その人たちの家族のように、ですか?」
「貴様………っ!!」
ついに恐ろしく顔を歪め、剣をまた抜こうとする貴様に、レイシアはおどけるように肩をすくめて笑うと、
「では、失礼しましょうか。」
と言って止まった馬車をよけて歩いて進んでいった。
騎士はその背中をにらみ剣のつかに手をかけるが、そのままで止まる。
シギは冷や汗をかいていた自分に勝をいれ、人混みから抜けるとレイシアを追った。
そのシギを騎士が目にとめ、フードから除くシギの顔を横目で見る。
「なっ…………お前……」
突然目を見開いてそう声を漏らす貴様に、シギが思わず足を止めようとするが、
「行きますよ。」
と数歩先で足を止め振り向いたレイシアに声をかけられる。
シギはその声に引っ張られるようにしてそのままレイシアに着いて行く。
なぜか呆然としている騎士に他の数人の兵が騎士の様子を伺うように焦るが、騎士は反応しない。
ついに耐え兼ねた一人の兵士が、
「おい!待て!!」
と後ろから呼び止めるがその瞬間、
「走りますよ。」
とレイシアが小さくつぶやき、いつの間にかこちらの様子をうかがうようにできていた旅人や商人の人だかりを縫うようにして走り始める。
シギもそれにうなずき、走り出した。
そして走りながら横目で一瞬だけ見た、馬車にひとつだけつけられた小さな窓。
鉄格子のようなものがついた窓の中。
こちらを疲れたような目で見る、たくさんの女たちと子供を。