zinma Ⅲ






「奴らを追いますか?」



そう聞かれて騎士は無言で何も答えなかった。



「隊長?」



部下がもう一度声をかけてくるが、まだ答えられなかった。


ただただ人混みの中でどんどん姿を小さく消していくあの不思議な旅人2人の背中を見つめる。

素晴らしい身のこなしで、2人ともすぐに見えなくなった。



下手をすれば反逆者ともとれる者たちを見逃したことを、部下は怪訝な顔で見つめてくる。








「あの少年……………」


「え?」



やっと出した声に部下が聞き返してくるが、それにも答えない。


フードを取ったあとの旅人の姿には正直驚いた。

まだ年若い、少年だった。

見たところ16、17くらいだろう。


それに、あの美しすぎる容姿。

貴族だと言われても納得する高貴さをそなえていた。


一瞬で、世界が明るくなったかのような輝かんばかりの美しさ。


そしてあの不思議な黄緑とも水色ともとれる色合いの瞳。





しかしこれだけ呆然とさせているのは彼ではない。





そのあと、彼の後ろを追って行った旅人だ。


目深に被ったフードからわずかに見えたあの顔。





紺色の、輝く髪。

そして一瞬かいま見えた、切れ長の瞳。




まるで。







まるで彼女が。










「隊長?」






「…………だ。」



「え?」




「あの人だった……。」




「だれがです?」







彼女のはずがない。

だが、あの一瞬目の前をかすめた顔は、彼女に瓜二つだった。



ただの幻覚だったのだろうか。




あの戦場で見た彼女を思い出しただけだろうか。






「隊長?」





「………いや、なんでもない。行こう。」


「え……で、ですが……やつらは……」


「いい。放っておけ。」


「………御意。」




気のせいだと、自分に言い聞かせた。












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