zinma Ⅲ
「力を持つ者たちが、力を持たない者たちの命を奪おうが生かそうが、簡単な話なんです。
それは自然の理。
あなただって小さなアリを殺すことは簡単でしょう。
たった一歩踏み出すだけで、何十匹のアリを殺すことが可能じゃないですか。
それと同じです。
たった一声貴族が命令を下すだけで、少数民族の村をひとつ焼き払い、女と子供をさらい、その家族を殺し、女たちを好き勝手にできるんです。」
それにシギの瞳の中の怒りが、どんどん無力感へと変わり、唇を噛み締めてうつむくのを確認して、レイシアは冷酷ともとれた口調を少しやわらげて続けた。
「これが王都にうずまく闇です。
あなたのように、何も知らず日々生きることに一喜一憂している人間たちと同じ時間に、ああいった虐殺は今だ行われている。
今この時間にだって、だれかが殺されているんです。
ルミナ族のことだって、あなたは歴史的虐殺と思っていたかもしれませんが、それは違う。
特別なことではないんです。」
瞳を揺らして悲しげにうつむくシギに、レイシアは彼の両親に申し訳なく思った。
本来なら、知らなくていい世界の裏側。
あの2人だって、息子にこんな闇を見せたくはなかっただろう。
だからこそ、自分たちを犠牲にして子供を手放し、山奥の静かな村に彼を捨てたのだ。
それなのに、自分に着いてきたばかりに、この底無しの闇に引きずりこんでしまった。
わかっていることだった。
自分は、本当ならばここにあってはならない存在。
自分に関わったものも、世界から切り離される。
だからこそ…………
「……師匠の言うことはわかりました。」
小さくそう言うシギに、レイシアは目を細める。
「ですが…………
できるだけ多くの命を……せめて目の前にある命を救いたいと思うことは罪なのでしょうか。
私たちは……こんなときも……傍観者でいなくてはならないのですか?」
シギは悲しげに、しかし何が意志のこもった瞳で真っすぐにレイシアを見つめていた。
それにレイシアはため息をついてうつむくが、すぐにまたシギを見上げた。
その瞳はさっきよりも空虚で、何もかもをあきらめたような、ある意味澄んだ瞳。
人には見られない、瞳。
少し気圧されるシギをよそに、レイシアは静かに言った。
「……それで、どうするんです?
助けるんですか?彼らを。
ああいった人は世界に山ほどいる。
見つけるたびに、救うんですか?」
淡々と、事実を述べるレイシアに、ついシギは何も言えなくなる。