zinma Ⅲ
レイシアはそのシギを見てシギを見下すような、いや、世界中の人間を見下すような冷たい表情になった。
「これはただ人を救えば解決する問題ではないんです。
たとえあなたが必死で彼等を救い、成功しても、同じことは必ず繰り返される。
この世界が根本的に狂っているからですよ。
本当に虐殺を無くしたいのならば、キニエラ族と戦い、あなたがこの世界の王になるしかありません。
どうです?やってみますか?」
それにも何も言えないシギに、レイシアはまたため息をついて、声を静かなものにして続けた。
「結局は何もできないんです。
助けたい。なんとかしたい。
願望、志、正義……
それはとても大切な気持ちですよ。
しかしそれが可能か不可能か。
現実的か絵空事かは別です。」
そこまで言ってレイシアはにっこりと微笑む。
「だからあなたには、あきらめるという能力を身につけていただかないと。
わかりましたか?」
そのあまりにも正しすぎる話に、シギはもう言葉もなかった。
レイシアの話は本当に正論だった。
たとえなんとかしようとしても、自分にその能力がなければどうしようもないのだ。
自分に、そんな力はない。
あの馬車の中の人たちの顔を思い出し、強く唇をかむ。
なんの抵抗をするでもなく、ただ黙って、運ばれていく人々。
その瞳には、絶望も悲しみもなかった。
ただの、あきらめからくる、空虚さ。
「………わかりました。」
絞り出すような声でシギがそう言うと、レイシアはまたにっこり微笑み、立ち止まったままのシギの横をすり抜けて歩き始めた。
大人しくシギも着いて来ることを横目で確認してから、レイシアはまた話しはじめた。
「あなたたちルミナ族も、ああいったキニエラ族による他部族虐殺のひとつだった。
キニエラ族は部族間での閉塞感が強いですからね。
なんのためらいもなかったんでしょう。」
「では、こういった虐殺も王家が指示しているんですか?」
顔をしかめてシギがそう聞くと、レイシアもまた真剣な声音になり答える。
「すべてではないでしょうが…
そういった虐殺を王家が黙認していることは確かです。」
それにシギは眉をひそめ、自分の記憶と知識を塗り替えた。
王家といえば、この世界を統一している絶対的な存在で、ずっと山で暮らしていたシギからしたら伝説のような遠く尊い存在だった。
両親や一族の死に王家が関わっていることも知っていたが、それでもあれはルミナ族とキニエラ族の間の古くからの因縁が産んだ差別だと思っていたのだ。