zinma Ⅲ
それなのに実は王家はそういった虐殺を当たり前のように行っているのだという。
「…それが王都に行けばわかるこの世界の汚い部分なんですか?」
シギがそう聞くとレイシアはふっと笑う。
「まだまだこれは氷山の一角ですよ。
もちろん大まかに言えば、王家が行っている虐殺や理不尽な戦争、といったところですが……
話で聞くのと目で見るのではかなり違いますからね。
いつかあなたがそれを目にしたら、おそらく世界がまったくちがったものに見えるでしょう。」
そう言うと、レイシアはすっと目を前に向ける。
まるで世界すべてを見ようとしているかのように、遠く。
まわりにはずいぶんと増えてきた人混みで、ざわざわとうるさくごった返している。
シギはさっきのレイシアの話に出てきた、自分と同じような境遇にある部族を思う。
それからふと、レイシアのことを考えた。
レイシアは、自分が『選ばれしヒト』という存在であり、人間ではないと思っている。
『選ばれしヒト』の侵食により、感情を失い、人間の生死にすら感情を抱かなくなったのだ。
だが。
ならば、レイシアがこれほどまでに人間を忌み嫌っているように見えるのはなぜなのだろうか。
王都に向かうにつれ、その思いが強くなっているような気がする。
レイシアは、王都に何か思い入れがあるのかもしれない。
シギはレイシアの背中をただ見つめるが、レイシアが答えるはずもなかった。
「さあ、見えてきましたね。」
レイシアの言葉に、視線を先に移す。
小高い岡のようになった街道を上りきったところで、突然視界いっぱいに、意味のわからないものが見えた。
これだけ遠くから見えるほど、大きな山のようにそびえ立つこの世界の中心。
やっと見えてきた王都のその先にある城を見つめ、シギは言葉を失った。
山よりも大きく、海よりも広い王都。
昔、あの村にいたころに、旅人のだれかがそう言っていたが、まさにその通りだった。
白い建物ばかりの王都は、まるで宝石のようにきらきらと輝いて見える。
そんな王都を見て、やっぱり闇よりも、希望のほうが見えてしまう自分に、シギは嘘が付けなかった。