一番近くに君が居る
「朝ココちゃん居なかったものね。…もしかして、ココちゃんと上手くいってないの?」
そんな事まで聞いてくる彼女は、本心で俺を心配しているのだろうか。それとも…
直哉は美穂を見据えるが、その表情からだけでは奥に潜む感情が読み取る事が出来ない。
「何?」と急に黙って見つめてくる直哉を訝しむ美穂に、「いや。俺急ぐから」とだけ告げてまた直哉は走り出す。
美穂がどんなつもりでそう言ったのかなんてどうでもいい。どっちにしろ、俺には関係の無い事だと直哉は自分に言い聞かせる。でないとなんだかモヤモヤしていたものがムカムカしたものに変わっていく、そんな気配がした。
自分が美穂にそんなムカムカした感情を抱くのはーー、腹を立てるのは、間違っているのだ。美穂に酷い事をしたのは自分なのだから、どうしても直哉は美穂を責めることは出来ない。してはいけない。それだけは常に直哉の頭の中にあった。
兎に角走って今だけ心を消してしまいたいと、直哉は思った。