一番近くに君が居る
「どうしてこうなったかちゃんと分かってるか?」
「うん?うーん…うん?」
「…つまり、な?この場合は…」
目の前に座るココの教科書を指差しながら直哉は解説をする。ココはその言葉に一生懸命耳を傾け、うんうんと頷いている。
分かったかな?と、直哉がココの様子をチラリと窺うと、思ったよりも近くなっていた距離にドキリとした。
俯き加減で直哉の指を追うために落とされたココの視線。長い睫毛が目元に影を落とし、瞬きのたびに繊細な動きを見せる。柔らかな髪の毛からはシャンプーの香りであろうか。ほんのり優しい香りが動きに合わせてふわりと漂う。いつも近くに居たけれど、こんなに近くで見たのはどれくらい振りであろう。
ゴクリと、直哉は思わず生唾を飲んだ。
と、その時。
コンコン、とノックする音がドアの方からする。その音でハッと我に返った直哉が目をやると、開かれたドアから久代が登場した。お茶とお菓子を持って来てくれたらしい。
「あ、ありがとうございます」
色々な意味で。なんて思いながらやれやれと直哉は頭を抱えた。