一番近くに君が居る


「着ぐるみ失敗だね!手がモコモコで料理運べないし、注文のメモ取ったりも全然出来ないから呼び込みに変えたのに、外はこの暑さ!意味なすぎる!」


「仕方ないからもう脱いだら?」と提案する咲に、「でも、折角文化祭だから…」なんて、暑そうにしながらも何故かそこは譲らないココ。


「…よし。もう少しコレで頑張る!」


そしてまた「メイド喫茶でーす!」と呼び込み始めるココに、咲は笑いながら合わせて声を出した。

そしてぐるりと一周校庭を回るココ達宣伝班。ある程度回ったら一度教室に戻ろうと話していたその時であった。


「…あ、ココ!あれ焼きそばのとこ牧君じゃない?」


“牧”という名前に反応したココは反射的に咲が指差す方向へと視線を動かすと、そこに居たのは焼きそばを焼く直哉の姿であった。


「本当だ。そういえば焼きそばだって言ってたっけ…」

「ね!どうする?行く?行っちゃう?」


いつものノリで目を輝かせて咲は言う。まだココは直哉から告白された事実を誰にも言っておらず、今二人が距離を置いている事ももちろん咲は知らない。

言いたくない訳ではない。秘密にしたい訳でもない。でも…どうやって言ったらいいのか、というか、人に言ってもいいものなのか分からなかった。そんなココは行く?という咲の問いにすぐに答える事が出来ず、「あ、えっと…」と口ごもってしまう。

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