一番近くに君が居る


そしてまた「楽しかったなぁ…」と空を見上げながら呟く美穂はどこか切なげな声色で、直哉はそっと様子を窺ってみるが、その表情には何の変化も見られなかったように思う。楽しそうに、笑っていたと思う。…しかし、何かが引っかかったから様子を窺ったわけでもあって。


「……気づいてくれた?直哉君」


空を見上げたまま、彼女は口を開く。


「私の気持ちに、気づいてくれた?」


そう尋ねると美穂は視線を直哉の方へと向ける。直哉から見たらそれは変わらず笑顔の美穂である。…が、しかし。それは違ったのだ。


「私に話があるんだよね?私は気づいてたよ」


美穂に告げられた真実に、直哉は言葉を無くした。どういう意味だというよりも、それはいつからだと思った。いつから彼女はそれに気づき、いつから分かった上で笑っていたのだろう。

すると美穂はクスリと笑うと、「もう、分かりやすいなぁ」なんてポツリと呟いた。
< 267 / 306 >

この作品をシェア

pagetop