青い星と青虫と
ふだんさほどしゃべらない紫音が自分の決意を話しだしたときだった。
「申し訳ないが血生臭い手を姫に触れさせるわけにはいかない。」
「えっ。」
「阿狼!やっとその気になったのか。偉いぞ。」
「そ、そういうつもりではなくて・・・私は・・・私は姫が生まれたときにお妃様直々に命令を受けたから。
有事のときには、姫のいちばん傍で最後までお守りするようにと。
守れと命令を受けているのに、姫を我が手で汚すようなことをするなど、できるわけないじゃないか。」
「あまいな。阿狼は所詮、分家筋の奥係だから、戦闘情勢も見えないというわけか。
いくつもの命が消えゆこうとしているのに、姫だけを守るとはよく言えるものだ。
それにな、俺だって銀狼を代表する家を途絶えさせたいとは思わないし、狼を捨てることはものすごく抵抗がある。
騎士のプライドももちろんな。
だが、非常時に家だプライドだなどと言ってはいられないだろう。
強い魔族がこっちに居て、姫直接こうちょっかいを出してくるとなると・・・戦うのも限界が来る。
ならば、王族となり未知の力を大きく発揮して守りたいものすべてを守り抜く方が多くの者が幸せになれるはずだ。
もちろん姫自身もな。
姫を強い力で守れれば姫は安心して子を産むことができる。
そしてその子たちがまた新しい命を育てていくことになる。
未来を守ることが小夜の務めではないのかな。
俺はその務めを叶えてやりたりと思う。
な、小夜。」
「紫音さん。さすがですね・・・戦乱の中ご自分の命も危うい中だったのに、ご家族も失ってきたのに、その中でしっかりとしたお考えをまとめておられたんですね。
わかりました。私はそのお考えにこたえなくてはならないようです。」
「いけません!まだそんな簡単にこたえなくてもいい・・・」
阿狼がそう叫ぶ言葉に小夜は首をふって阿狼に微笑んだ。