喧嘩屋土門
雪駄の音も軽やかに、男は馴染みの飯屋の暖簾を潜る。

「おぅ、向日葵(ひまわり)、飯食わしてくれ!」

意気揚々と声をかけた彼の額に。

「おぅっ!」

鋭い回転のかかった盆が直撃する!

「寝惚けるのもいい加減にしなさいよ、土門!」

絣の着物に白い前掛けをつけた、おかっぱ髪の娘が怒鳴る。

年の頃は土門より三つほど下、十五かそこらだろうか。

娘盛りの華やいだ印象を受ける。

キンキンと耳につく声も、彼女の愛らしさがあれば微笑ましささえ感じさせた。

「ってぇ…」

看板娘・向日葵の百発百中の盆の投擲を受け、男は仰向けに転倒した状態から起き上がる。

「向日葵ちゃんの前じゃあ、流石の巽 土門(たつみ どもん)も形無しだな」

麦飯をかっ込んでいた職人らしき客の男が言い、それを聞いて他の客達も笑った。

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