喧嘩屋土門
「気にするこたぁねぇよ…たまたま通りかかった縁だ…それよっか…」

足を組み、頬杖をついて。

土門は中年男を見上げた。

「昼日中から商人のあんたが襲われるたぁ穏やかじゃねぇやな…最近の物盗りは日のあるうちから仕事に精を出すのかい?ご苦労なこったな」

「いやいや…ありゃあ物盗りじゃないんだよ、土門さん」

土門の向かいの椅子を引き、中年男は腰掛ける。

「雲竜小五郎って知ってるかい」

「雲竜?」

甚平の懐に手を突っ込み、土門はボリボリと掻く。

「何年か前に、そんな四股名の力士がいたな…あっという間に番付上げて、こりゃあ無類の横綱になるって評判だったが…」

< 7 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop