白い翼と…甘い香り

「コーヒー、冷めちゃうよ」

優しい声が耳元で囁いて
仕方なく私は、背中から
抱き締められたままの

不自由な姿勢で
コーヒーを飲んだ。

抱き締められて
動けなくて
嬉しいけど照れ臭くて

だけど、心のどこかが
痛くて苦しくて…

「夜はちょっと、寒いよな」

って言いながら
もっと

身体が寄り添うように
抱き締めて

和也は私の耳元でコーヒーを
啜るように飲んでた。

寄り添った頬が
触れ合う…

「冷てぇ…」

って言いながら
コーヒーカップで暖まった
自分の手を、私の頬に
ピタッとくっつける。

「和也の手、暖かい…」

和也のこういう行動は
計算してなくて
当たり前に自然すぎて

何も考えずに思った事を
スッと動作に表すんだよね。

抱き締めたいと思えば
迷わずに抱き締める。

私の頬が冷たいと感じれば
すぐ暖めようとしてくれる。

素直、過ぎるよ…

だから真っ直ぐ過ぎて
痛いくらいに
刺さってしまうんだ。



まだ熱いくらいに
温かったコーヒーは

飲めばポカポカと
身体を暖めるのに

どうしてこんなに
苦いんだろうね。

暖かさと苦さが
混ざりあって

涙が出そうな味なんだ。

「大好き」だって
思う気持ちは

決して甘さだけじゃない。

和也に出会って
初めて知った気持ちは

コーヒーみたいに最初は熱くて
だけど
最後に残るのは

切ないくらいの
苦さだったんだ。


和也を傷つけない方法が
だって

私にはまだ
見つけられない…

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