瑠璃色の夢は泡沫に沈む
「……この辺り、だったよな。ラフィン」
乗っていた馬の手綱を引いて足をとめ、そのまま馬上で振り返り、そう訪ねてきた少年に青年―――ラファール=ドナ=バージェは穏やかに微笑んだ。
「ええ、その通りです。殿下」
「……今はいいが、村に入ったらその呼称はやめてくれ。一応、調査するために来てるしな」
途端、幼い顔が急に大人びて、さきほどまでのあどけなさが取り払われ、怜悧な眼差しが厳しさをはらんで彼の存在を強くする。それを流石だと胸中で感嘆しながら、ラフィンもまた彼と同じように視線を厳しくした。
フィルネシア王国から東方に位置する、ギージュ伯収める地。その高原は青く美しく、どこまでも広がっているのが分かり、農耕業の盛んな土地であるとひと目でわかる。
しかし、ついこの間この地で何らかの騒動があったというのにもみ消されていた事実を噂で聞きとどめ、ラフィンと少年はこの地を訪れた。本来ならラフィンひとりでも事足りることだが、今回は伯爵という地位につく、貴族相手ゆえに少年を共にせざるを得なかった。もし彼に何かあったら…と思うと、どうしても薄ら寒いものが背筋を駆け抜けるのを止められない。
だが、それが分かっているのだろう。彼は振り返り、穏やかに微笑んだ。