瑠璃色の夢は泡沫に沈む
「ラフィン。俺に構わず、しっかりと自分の任を果たせ。一応、武術の心得はある。心配には及ばん。……それに、万が一そうなったとしても、それは俺の未熟な腕によるものだ。お前の所為になるはずがない」

「ですが……」

なおも言い募ろうとしたラフィンに、柔らかな声が尖り、鋭い叱責が飛んでくる。

「二度言わせるな。俺を侮辱する気か」

「………申し訳、ありません。殿下」

「……ふむ。その調子だと村に入ったときに切り替えが出来なさそうだな。…ラフィン、今すぐ呼称を改めろ」

その台詞に仰天し、目を見開いたラフィンに、少年はふわりと微笑んだ。

「ラフィン?」

有無を言わさない笑みと、名を呼ばれたことによって彼の意図を汲み取ったラフィンは、漸うと行った様子で―――若干視線を下げながらではあるものの―――口を開いた。

「……申し訳ありません、ディアン様」

「それでいい」

満足そうに笑んだ少年は、そうして再び前を見据える。その視線のさきを見据える彼をぼうっと見惚れたように見つめていたラフィンは、彼がぼそりと放った言葉にはっとして馬の手綱を握る。

「民へ圧政を敷く貴族など、兄の治世には必要ない」

そう言い放った少年―――フィルネシア王国第二王子、ディシオス=アンゼベルク=フィルネシアは、ぎゅっと手綱を握るのと同時、強く唇を引き結び。

馬を急かすように鞭打って、再び草原を駆け始めた―――…。
< 4 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop