瑠璃色の夢は泡沫に沈む
 馬の手綱を引き、荷物を馬の背に乗せたまま村の中を練り歩く。程よく湿る大地を踏みしめると、ぬかるみのような不快さは然程ないものの、体の重みに耐えかねて、柔らかな土の中に足が少し沈み、黒ずんだ土が靴に纏わりつく。


 王都とは違う自然の大地の感触に、思わず相好を崩して視線を落とすディアンの背後に控えるように歩きながら、ラフィンは視線を周囲に走らせる。


 久々の来訪者の姿を遠巻きに見つめる村人たちは、自分たちを見ているようでいてどこか別のものを見ているように思える。それがなんなのか探ろうとした時、背後からそっと忍び寄る気配にラフィンは肩越しに振り返る。


「……ディアン様」


「わかっている」


 背後から付け狙う者のことを伝えようと名を呼ぶと、即座に返答がなされた。しかし、悟っているというのに構えもせずに平然と歩き続けるのは、相手に殺気がないことと、相手が何を狙っているのかある程度予測出来ているからだろう。


「――――動き出したな」


 気配が一定の距離を保っていた均衡を破り、迫ってくる。しかし、それを緩慢な仕草で見つめるディアンの姿を視界に捉えながら、ラフィンはすっと息を止める。


 ラフィンの真横を駆け抜けたのは、小柄な体。その目が狙うのは、ディアンではない。


 一瞬の間隙を縫って、ラフィンは動く。ディアンもまた、振り返って右手を伸ばした。


「――――っわぁ!!」


 響いたのは、短い悲鳴。


 ラフィンに腰を抱え込まれ、ディアンに手にした短刀を奪われて、事態の把握に数秒の時を要してから、少年は暴れだした。


「は、放せええぇぇっ!!」


 絶叫しながら抱え込むラフィンの体に殴る蹴るの暴力を振るう少年だが、普段から鍛えているラフィンにとって、それは鬱陶しい程度のささやかなものであり、身の危険を感じるようなものではない。
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