~夏の思い出~ 君に、初恋。【完結】
妃がボーっとしてんのは、珍しいと思う。
いつも凛としてて、静かに周りを見ているようなやつだ。
そんな妃が、一言も発さずにふらふらと店の中を見て回っている。
…いや、なにか、目的があるように見える。
ぴたりと、ひとつの場所で止まった。
「唯…ここ、空けてみてもらえますか?」
さすがに他の人がいる店内で物を動かすことは出来ないらしく、俺にそう頼んできた。
服を見るのと同じ要領で、一枚ずつ浴衣を出して妃に見せてやる。
すると、五枚ほど見せたところで「これ…」と小さく呟いた。