LITTLE
「そんな所があったんだ。よく行ったりするの?」
『うん。僕も知ったのは最近。綾瀬とよく行くんだ。そんなに混む事もないし、静かだし、好きなんだ。あの駄菓子屋』
「そっか……光原君と……」
 喋れない事で、あらゆる障害を生んでしまった麗太君の為に、光原君は静かで居心地の良い駄菓子屋を紹介してくれたのだろう。
 なるほど、光原君がクラスメイトや先生から慕われる理由がよく分かる。
 さすがだ、騒がしいだけの男子とは一味違う。
 マミちゃんも、そういう男子の一面を見れば、少しは考えを変えてくれるかもしれない。

そういえば、どうしてママは駄菓子屋の位置を、地図に書いてまでメモに残したのだろう。
高校の頃の友達に会って来ると言っていたのも、何か引っ掛かる。
わざわざメモに位置を記して残したという事は、私……いや、私と麗太君をそこへ誘導する為?
分からない。
でも今、私達がする事はただ一つ。
「麗太君、駄菓子屋まで案内して!」
 麗太君は、待ってましたと言わんばかりに頷いた。
 どうやら彼も乗り気の様だ。
 私達は、日常から外れた様な少しばかりの冒険心を抱いて、自宅を後にした。

 麗太君に案内されて着いた駄菓子屋は、自宅から十分程の場所にあった。
 表の大きな通りから外れ、裏の通りを行き、古そうな民家の連なる通りの一角。
 外には、何種類かのアイスが詰められたケースが置かれている。
 入口の硝子戸はというと、閉まってはいるが、営業中という木製の小さな掛札が戸に引っ掛かっている。
 どうやら営業中の様だ。
 しかし……どうも人を寄せ付けまいとしている様な雰囲気が、入り口全体に漂っている。
「ねぇ、この駄菓子屋……営業中って書いてあるけど、普通に入って大丈夫なの?」
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