LITTLE
 すると、コップの中の水はたちまち泡を発し、コーラと同様黒く染まった。
「飲んでごらん」
 お婆ちゃんはコップを私達の前に差し出す。
 怪しいとは思ったのだが興味の方が勝り、コップの中のコーラらしき液体を一口飲んだ。
 おいしい。
 というより、これは普通のコーラだ。
「どうだい?」
「おいしい!」
「そうかい、良かった」
 藤原先生は微笑ましそうに言う。
「やっぱり似てますね。香奈さんと優子ちゃん」
「そうね。私も昔は、よくこれを飲んでいたものね」
 昔……そういえば、ママと藤原先生はどういう関係なのだろう。
 それにこのお婆ちゃんは?
「ママは、藤原先生とお婆ちゃんとは、どういう関係なの?」
「そうねぇ、一番に話さなくちゃならない事が抜けてたわね」
 ママは駄菓子を一つ取り自分の側に置き、お茶を一口飲むと話を切り出した。

 ママの話によると、高校の頃の友達、つまり藤原先生とは、この駄菓子屋で知り合ったのだそうだ。
 その頃、ママは高校生。
 藤原先生は、まだ小学生だった。
 年を経ても、藤原先生との付き合いは長く、今日の様に大人になった今でも頻繁に会っている。
 私が見たテーブルの上に置かれたメモ用紙は、全てママの計算で、私と麗太君を駄菓子屋に誘導する為の物であった。

「あの頃が懐かしいわ。友達は皆、この街を離れて都心に引っ越しちゃったし。今となっては、残る私の友達は博美だけね」
 ママは少しだけ悲しそうな顔をしていた。
 数週間前、麗太君のママは亡くなっている。
 きっとママの心には、その事も大きな傷として残っているのだろう。
 ママの周りにいた人は、少しずつではあるがいなくなっていく。
 きっと、大人になれば私も……。
 でも今は、ママの周りにはたくさんの人達がいて、ママを支えている。
「今は、私が……いるから」
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