LITTLE
「え?」
 恥ずかしくて、顔が火照ってきた。
「私がいるから。麗太君も、マミちゃんだって。パパだって、すぐに出張から帰って来るよ」
 私は何て事を勢いで言ってしまったのだろう。
 本当に恥ずかしい。
 麗太君だって側にいるのに。
「……ありがとう、優子」
 赤面して俯く私に、ママはいつもの様にからかう事もなく、穏やかに微笑んでくれた。

 高校時代のママ、その頃の藤原先生の話。
 私や麗太君の学校での話。
 長い話に明け暮れた後、私達は座敷から降りた。
 既に陽は傾き始めていて、駄菓子屋の入り口である硝子戸からは、オレンジ色の光が真っ直ぐに差し込んでいる。
 帰り際、お婆ちゃんは私と麗太君に言った。
「何か好きなお菓子を一つ持って行きなさい。今日はタダで良いからね」
「お婆ちゃん、ありがとう!」
 棚の上には、スーパーで買える様なお菓子もある。
 どうせなら食べた事のない様なのが良いなぁ。
「麗太君は、どんなのが好きなの?」
 振り返ってみると、麗太君は店の隅にしゃがんで何かを見ていた。
「どうしたの?」
 近寄ってみると、隅には丸く太った白い猫が座っていた。
 目の前だけをじっと見つめていて、まるで動こうとしない。
 なんでこんな所に猫が……さっき店に入った時には、いなかった様な……。
 もしかしたら、気付かなかっただけかもしれない。
 そもそも、この猫は本物なのだろうか。
 恐る恐る猫の頭を撫でてみた。
 すると、ニャアァ―という、なんとも脱力気味な、それでいてどこか可愛らしい泣き声を発すると、大口を開けて大きなあくびをした。
「この猫……本物だよ!」
 喜んでいる私に続いて、麗太君も猫を撫で始める。
 気持ちが良いのか、猫は太った体を床に倒し、寝そべって腹を出して見せた。
< 61 / 127 >

この作品をシェア

pagetop