LITTLE
 麗太君は、机の上にさっき手に持っていたお盆を置き、箪笥から替えのパジャマを出してくれた。
「ありがとう……」
 麗太君は首を横に振り、メモ用紙を見せる。
『どうって事ない。冷えるから早く着替えた方が良いよ。僕は部屋に戻るから、何かあったら呼んで』
 去ろうとする麗太君の腕を、私は咄嗟に抱き寄せた。
「行かないで……一緒にいて……」
 もし、麗太君に私の事を少しでも思ってくれている気持ちがあるのなら、一緒にいて欲しい。
 何より、抱かれた感覚が忘れられない。
 腕を必死に抱く私を見て、麗太君はゆっくりと頷いてくれた。

 お互いに反対方向を向き、私はベットの上で替えのパジャマに着替えた後、麗太君が持って来てくれたポカリスウェットで喉を潤した。
「麗太君、昼休みの事なんだけど……」
 しっかりと言っておきたかった。
 あの後、私は麗太君と話す暇さえなかったから。
「さっきは、ありがとう。麗太君が、私を保健室まで運んでくれたんだよね。ビックリしたよね? いきなり倒れちゃうんだから」
『どうって事ない』
 言葉を発する事が出来るのなら麗太君は、咄嗟にそう言っているのだろう。
 きっと、咄嗟に思い付いた言葉も、相手に訴える事も、本来なら容易なのだ。
 それなのに、今の麗太君にはそれが出来ない。
 他人は麗太君に対して、必要最低限な言葉だけを求めてしまう。
 私は……そんな他人にはなりたくない。
「あの時……いや……今も感じているけど、麗太君からは、ママやパパと同じ香りがするの。だから私は、麗太君の事を家族も同然だと思ってる」
 きっと、麗太君もそう思っている。
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