聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
 黒衣を身に纏い、目深に被ったフードから垣間見える唇が怪しく歪む。右手を振り払い、少年が叩き込んだ魔力の一切を、その謎な人物は完璧に跳ね除けた。


「……お怪我は、御座いませんか?」


 発せられた声音は、低い。男か。


 少年がそう確信すると同時に、青年は立ち上がり、唇がにぃ、と歪む。


「……少し遅かったな。だが、助かった」


「いえ…。感謝されるには及びませぬ。我が不得手な類の喧騒から身を潜めていたら、我が主の命を危険に晒してしまったのですから」


「構わん。お前を見つけられて、兵が思うように動かぬほうが何倍も面倒になりかねん」


 笑みを浮かべながら会話を繰り広げる青年と男を見下ろしながら、少年は恐怖に顔を青ざめさせていた。

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