聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
「………入学当時、ハイネル様の仰った預言者の言葉が、まさか現実になるとは予期していませんでしたが」



「……あぁ。俺も最初は半信半疑だったさ。………サリアの特殊な才能に、気づくまではな」



 青年が置いていった本―――それを手に取り、ぱらぱらと捲る。その手が、“音律士(クルーナー)”の項目のところで、止まった。



「………サリアの才能を知ったとき、これだけではあってくれるなと、願っていたのに、な……………」



 声に、震えが混じる。



「………どうして、サリアなんだろう、な………」



 俺の大切なものばかり、なぜこうも重いものを背負わなければならない運命にあるのだ。



 肩を震わせるゼフロスから、視線を背けてリアンはそっとその場を離れるために扉へと歩み寄る。



 その扉に手をかけ、ぎいぃぃ…という音を響かせながら。



 ―――ゼフロスの視界から誰もが消え去った後、彼は静かに机の引き出しに手をかけた。

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