聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
「そろそろ帰ったらどうかな? 明日も早いし、何処にいるかも怪しい連中に見つかったら大変だから」



「……あぁ、そうしよう」



 頷いた友人が、開かれた扉の向こうへと足を踏み出した。彼が自室へと戻るところまで見届けることなく、青年は扉を閉める。



「……ナギ様の幽閉、サリアの覚醒、ゼフロス殿との取引……いろいろと問題が山積みだな」



 嘆息しながら、青年は笑う。



「………でも、やっと会える」



 取り出したのは、一枚の手紙。中身は何度も読み直して、もう皺くちゃになっている。



「………この言葉、撤回してもらいますよ」



 そこに書かれた一文を指の腹でなぞり、青年は笑う。



「僕は、あなたからこんな言葉を欲しくないんだから………」



 そこに書かれているのは、近況を知らせる言葉の連なり。そして、青年がなぞった言葉だけ。



 ―――俺の傍にいた所為で、すまなかった。



 眼裏に思い浮かぶ、麗しの美貌の彼の人の、謝罪の言葉だけ―――…。
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