聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
 そこに二本足で立つ、黒色の熊は、使い魔などではなくまぎれもなく野生のもの―――…。



「……来なさい。すぐにでも片付けて、先に進みたいの」



 魔法は使わないだろうが、完膚なきまでに叩きのめしてまた背後から襲いかかってくるかもしれないという憂いを無くして先へ進みたい。



 迫力のある風体に、じり、と後ずさりながらも、フィニアは魔力を右掌に集中させる。



「響け、風の音、走れ、刃となり―――!」



 元素が生み出した風が、熊目掛けて飛んでいく。



 風の刃は見事熊に命中するが、怯まむどころかむしろ怒り狂ってこちらへと来る熊を睨み、フィニアはぎりと歯軋りする。



「……ちょっと時間がかかりそうね…っ」


 風の元素を操って再び宙へと飛び上がり、フィニアは眼下で咆哮する熊を見下ろす。


「―――急いでるの。早くおとなしくなってくれないかしら……っ?」



 再び魔力を結集させ、熊へと放ったフィニアは、野生の熊のしぶとさに、思わず額に冷や汗をにじませた―――…。
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