聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
 晴天の空を窓越しに見つめながら、アルジスはふっと息を吐く。


 ―――大丈夫だろうか。


 脳裏に浮かぶのは、優しい光を宿した瞳を持つ、小さな少女の姿―――…。


 続けて、首元にぶら下げた媒介を握りしめ、懸命に歌を紡ぐ姿を、成功して喜びに満ちあふれた笑顔を思い出す。


 感受性豊かで、努力家で、大人しいのに芯が強くて。―――それでいて、一度は刃を向けた相手であろうが、優しく接せられるほどの寛容さを持つ娘。


 それは、尊い命を守ろうとする母性が本能的なレベルで作用しているからか―――あるいは、自分を見捨ててしまうことは出来ないという彼女のお人好しな性格が作用したのか。だが、それでも彼女の優しさは、真綿にくるまれるように心地よいのは、自覚していた。


 幸せなど望めなかった環境に、突如訪れた穏やかでささやかな日々。―――それが今自分を取り巻いているものだとアルジスは理解しており、いずれはそれから離れなければならないことを理解している。


 それでも。―――彼女がセカンドに昇格するのを見届けるまでは。


「………此処に、いたい」


 ―――そう思った理由を、彼女に打ち明けることは出来ないけれど。
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