聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
 侮ることのできない人間ばかりなのは、当然この試験での合格が難しいということにもつながる。すでに先ほどの膨大な知識の問題をこなせなかったであろう生徒の大半は、蒼白になっていたり震えていたりと、自分の未来を憂えている。


 サリアも、尋常でない冷や汗が背筋を伝うのを感じる。この試験、今までみじめな思いをしてまで学院の生徒として留まり続けてきた意味を見出すものである。――――簡単に、勝ちを譲れない。


 ぐっと手を握りしめ、サリアは今回の試験官を見つめる。―――何でもいい。少しでも彼らの癖や行動パターンをあのくつろいでいる様子から推測できないか。もし読み取れなかったとしても、自分が最初に試験をする確率は低い。その間に、なんとか隙を見出して戦闘を有利に進める方法を。


 今までの自分なら考え付かなかった行動だろう。けれど、今の自分には支えてくれるひとがいる。―――知識を、知恵を、与えてくれる人がいる。


 ―――発言。行動。癖。表情。見えるものも見えないものも、すべて読み取れればきっと自分の行動に余裕が生まれるはずだ。


 彼が言う余裕をどこまで自分は持てるのかはわからない。むしろ、無駄な努力になるかもしれない。


 それでも、彼が教えてくれたことを、無駄にするなんてことは、したくない。


 その思いだけに突き動かされ、サリアは必死に三人の様子を窺う。


「では、そろそろ始めようかぁ」


 少し間延びした、ちょっと気の抜ける発言を聞きとめた生徒たちが、顔を上げる。


「………一人当たりに許すのは三分間。その間に一撃でも僕に食らわせてね」


 笑顔で言いながら懐から薄気味悪い濁った色をした液体の入った試験管などを取り出すリオに、生徒は嫌そうに顔を背ける。


「スペースも限られているから、あまり派手な攻撃はできないと思いなさいね。必要なのは冷静な判断力と、分析力。或いは粘り強さかしら」


「準備のできた奴から始める。試験官も好きな相手を選べばいい。しかし、時間の関係上誰かひとりが空きになったら強制的に何人かこちらに来てもらうことになるかもしれんことを考えて行動しろ」


 他の二人もリオから少し離れた場所で懐に手を突っ込み、用途の良くわからないアイテムなどを取り出し始める。
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