聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
 瞬間、自分が見たものに目を疑った。


「………あれ、一体何…?」


 視線の先。そこに映るのは。


「……っ」


 微かな喘鳴を繰り返し、地へひれ伏す青年と、腕を組んだまま視線をその青年へ投げかける男。―――問題は、そこではない。


 平地であるはずのフィールドが、青年の周りだけ歪んで見える。……いや、目の錯覚などではない。明らかにへこんでいた。


 例えるなら、地上遥か高くから、隕石が落ちてきたときにできるあの窪みが、青年を中心にして、しっかりと大地に刻まれている。もちろん、隕石が落ちたときにできるものよりは、はるかに小さなものなのだろう。事実、深さはせいぜい一メートル足らずだし、直径も、二メートルあるかないかくらいだ。


 だが、どのようなアイテムを使えば、このような地形に変わるのかが分からない。込み上げる恐怖が、絶対に彼の人とやることに静止をかける。


 結局、誰を相手にすればいいのかわからなくて、サリアは俯いた。


 合格はしたい。それは本音だ。だが、しかし、私の今の実力では―――!


 ぎゅっと目を閉じたとき、ふと耳に滑り込んだ声に、サリアは顔を上げた。


「……いま、なにか………」


 とても、重要なことを、聞いたような。


 足が、自然と動き出す。見えた姿に、サリアは声を張り上げた。


「あのっ………!」


 気のせいであったら、もう勝算などなくなる。けれど、けれど、ほんの一瞬、聞こえた言葉が真実であったなら―――…。


「すみません! さっき、そこの人と話していた内容、私にもう少し詳しく教えてください―――!」


 振り向いたその人の顔は、不思議そうに自分をとらえていた―――…。
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