聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~

第二楽章

 賑わう試験の場から少し離れて、物陰へ隠れて動く不審な影が、ひとつ。


「………どうだ、成果は?」


 手に持つ通信機から発せられる声に、ぼそぼそと何事かを返す影が再び沈黙すると、通信機からくぐもった哄笑が漏れてくる。


「それは愉快だな……。楽しいことに、なりそうだ」


 伝え聞く話だけでも心が弾んで仕方がないとでもいうように、楽しげな声に影は何事かを再び口にする。


「……そうか。まさかそんなところに逃れているとはな」


 少しだけ静寂が広まったかと思えば、再び通信機が震える。


「それで? 見つかったのか?」


 影はしばしの沈黙の後、短く問いに答えたようだった。そのいらえに少々残念な気持ちが勝ったのか、ため息が漏れ聞こえてくる。


「………まぁ、いい。お前の計画が進めば、おのずと現れる」


 独り言のように放たれた言葉のあと、再び成果があればすぐにでも報せろという言葉が続けられ、通信は勝手に遮断された。影は、しばしそのまま沈黙していたが、通信機の電源を切り、懐へと戻す。


 影が、試験の会場を振り返る。―――何も知らず、無邪気に自らの夢を追いかけて必死になる、大勢の生徒たち。


 それを無言で見つめた後、影は動き出す。


 その多くの笑顔を、苦悶に歪むものへ変えるために――――…。
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