聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
「…………っ、しつこい…!」
木の幹の上。
疲れが出てきて余裕を失ってきたからか、いつもよりやや乱暴な口調で苛立ちの滲んだ言葉を吐き捨て、フィニアは作り出した風の刃を熊めがけて振り投げる。
見事に命中したはいいが、鋭さと疾さを誇る殺傷能力抜群の風の力を受けても未だに全力で襲いかかってくる熊に、フィニアはひとつの可能性を見出し始めていた。
(………野生の熊にしてはしぶとすぎる。魔法で防御に特化した体に変化させているかもしれない………!)
だが、その真意が掴めない。
森という方向感覚を見失うような自然の迷路の中で、出口を見つけようと躍起になり、体力を疲弊している生徒たちには、野性の熊と遭遇するだけで致命傷にもなりうる可能性がある。教師がわざわざ進んで魔法に対する耐性を与え、生徒の命さえ危ぶまれる状況に追い詰めるというのは、おかしいを通り越してありえない事態だと判断できる。
しかし現実に、短時間で決着をつけようと魔法を振るっていたフィニアの目の前で、熊は平然と立っている。体を粉砕するような破壊力に満ちた火の魔力ほどではないが、急所を正確にかつ素早くつくことができるため、相手にとって致命傷を与えやすい風の魔力は、攻撃に対する魔法が山ほどあり、応用も効くため四大元素の中でも扱いやすく最強とも囁かれる。
それを体内に秘めたフィニアにとって、想定外すぎる熊との対戦でも、遭遇当初は早くゴールへ向かわなければと思うと苛立ちを煽るものではあったが、焦りを覚えるほどでもなかった。
しかし、しぶとく立ち上がる熊と対戦し続けた結果、そろそろ休息を挟まなければならないほどに魔力が底辺まで落ちている。回復用のアイテムはいくつか持ってきてはいるが、回復したあと熊と対戦して勝利し、そのままゴールを目指すにはあまりにも頼りない程度しかない。
懐に手を入れ、回復薬を取り出す。淡い青色の澄んだ輝きを秘めた液体は、フィニアが自分の魔力を混ぜて作り出した専用のものだ。市販のものより体に馴染みやすく、効き目はいいが、その分創りだすのに時間が掛かるし、ちょっとした副作用もある。
しかし―――この状態で対戦するのは、あまりにも無謀。
瞳を閉じ、逡巡する。――――迷いは、一瞬。
瓶のコルクを抜き、口付けて一気に煽る。苦味の混じった液体は喉の奥へと流し込まれ、フィニアは一瞬眉間の皺を深くする。
軽い咳と共に飲みきった液体が入っていた瓶を放り投げる。用済みのものをずっと持っていても嵩張るだけでなんの特にもならない。
呼吸を整えながら、体の中の魔力が少しずつ膨らんできたのを感じながら、フィニアは熊を見下ろす。
木の幹の上。
疲れが出てきて余裕を失ってきたからか、いつもよりやや乱暴な口調で苛立ちの滲んだ言葉を吐き捨て、フィニアは作り出した風の刃を熊めがけて振り投げる。
見事に命中したはいいが、鋭さと疾さを誇る殺傷能力抜群の風の力を受けても未だに全力で襲いかかってくる熊に、フィニアはひとつの可能性を見出し始めていた。
(………野生の熊にしてはしぶとすぎる。魔法で防御に特化した体に変化させているかもしれない………!)
だが、その真意が掴めない。
森という方向感覚を見失うような自然の迷路の中で、出口を見つけようと躍起になり、体力を疲弊している生徒たちには、野性の熊と遭遇するだけで致命傷にもなりうる可能性がある。教師がわざわざ進んで魔法に対する耐性を与え、生徒の命さえ危ぶまれる状況に追い詰めるというのは、おかしいを通り越してありえない事態だと判断できる。
しかし現実に、短時間で決着をつけようと魔法を振るっていたフィニアの目の前で、熊は平然と立っている。体を粉砕するような破壊力に満ちた火の魔力ほどではないが、急所を正確にかつ素早くつくことができるため、相手にとって致命傷を与えやすい風の魔力は、攻撃に対する魔法が山ほどあり、応用も効くため四大元素の中でも扱いやすく最強とも囁かれる。
それを体内に秘めたフィニアにとって、想定外すぎる熊との対戦でも、遭遇当初は早くゴールへ向かわなければと思うと苛立ちを煽るものではあったが、焦りを覚えるほどでもなかった。
しかし、しぶとく立ち上がる熊と対戦し続けた結果、そろそろ休息を挟まなければならないほどに魔力が底辺まで落ちている。回復用のアイテムはいくつか持ってきてはいるが、回復したあと熊と対戦して勝利し、そのままゴールを目指すにはあまりにも頼りない程度しかない。
懐に手を入れ、回復薬を取り出す。淡い青色の澄んだ輝きを秘めた液体は、フィニアが自分の魔力を混ぜて作り出した専用のものだ。市販のものより体に馴染みやすく、効き目はいいが、その分創りだすのに時間が掛かるし、ちょっとした副作用もある。
しかし―――この状態で対戦するのは、あまりにも無謀。
瞳を閉じ、逡巡する。――――迷いは、一瞬。
瓶のコルクを抜き、口付けて一気に煽る。苦味の混じった液体は喉の奥へと流し込まれ、フィニアは一瞬眉間の皺を深くする。
軽い咳と共に飲みきった液体が入っていた瓶を放り投げる。用済みのものをずっと持っていても嵩張るだけでなんの特にもならない。
呼吸を整えながら、体の中の魔力が少しずつ膨らんできたのを感じながら、フィニアは熊を見下ろす。