聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
鼓動が上がる。呼吸が速くなる。それでも、サリアはついに一歩踏み出した。
「………よろしくお願いします」
目の前で微笑むのは、身なりがだらしなく崩れた青年。しかし、絶対的な余裕を醸し出していることがわかる堂々とした佇まいが彼の印象を強めている。
リオ・バルジェスター。今季大会、最も油断ならないブラックホース。所持するアイテムも多く、どのような手が繰り出されてくるか、分かったものではない。
奔放に伸びた髪の下から除く、厚みのある眼鏡が彼の容貌を隠しているため、口元に浮かぶ笑みが何か企んでいるゆえの不敵な笑みに見え、サリアは身を硬くする。
「…………えっと、お名前は何だったかなぁ?」
「サリア・セレシード。属性は光です」
「あ、学院長のお孫さんだね! 初めて見たよ。贔屓目かと思ったけど、本当に綺麗な顔をしているね」
明るい声音で発せられた言葉に、サリアは顔を青くする。遅れて、その言葉を聞いていた試験を受けている生徒たちから陰口が飛んでくる。
「やっぱり、コネで学院に入ってんじゃねーか」
「本当に恥ずかしい子」
隠していたことが明るみになり、蔑みの対象となったサリアは、逃げ出したい気持ちを必死に堪えた。
仕方がない。自分が今まで無能だったことは周知の事実である。それを覆すには、この試験をクリアするしか手がない。逃げ出してしまえば、その手段を放棄したことになり、皆を認めさせることは、さらに困難になる。
熱くなる目頭を左腕の袖口で拭い、彼女は顔を上げた。余裕そうな顔には、実力の出来不出来にかかわらず、全力で答えようとする誠意がうかがえたように思えた。
「―――――行きます!」
宣言と同時に走り出し、同時に歌を紡ぎだす。口から飛び出すのは、周囲には意味を成さない音にしか聞こえないが、サリアの周りには元素が集まりだし、リオは警戒するように後ろに一度飛んで距離を取った。
「フィア セイ レイ ネゥ ツェ ……… 」
弾丸のように飛び出た光球が、リオめがけて突進していく。
「え、光? でも、これ風を纏って―――!」
驚きで無意識に呟いたリオの言葉が聞こえたが、サリアは続けざまに唱える。
「セイ リー レイ ツェ ネゥ シィ ……… 」
歌に反応したように、光球が一瞬小さくなる。リオがそれを視認してアイテムを使用しようと懐を探る。
「シィ ディア ソル ネゥ レイ ……… 」
しかしそれを取り出す過程で、彼女の口ずさむ歌が次の音を紡ぎ終わったことを耳にすると、顔を両腕で庇って後ろへ飛ぼうとする。――――だが、遅い。
それよりも早く彼の懐に潜り込んだ光球が、一気に爆散する。といっても、サリアはそれが身体的な致命傷にならないことは知っている。彼女の目的は別にあった。
(リオ先生の眼鏡の奪取が最善だけど、不可能なら魔法を眼鏡と瞳の間で発動させれば―――…!)
つまり、閃光による視界の一時的機能を奪う方法。サリアはこれを狙っていた。その理由は単純明快。眼鏡をかけている人物は多く存在するが、その何割かは特殊な例で裸眼でいられないためにかけていることが多い。その何割かの人物の中に、リオ・バルジェスターも含まれていたからだ。
「………よろしくお願いします」
目の前で微笑むのは、身なりがだらしなく崩れた青年。しかし、絶対的な余裕を醸し出していることがわかる堂々とした佇まいが彼の印象を強めている。
リオ・バルジェスター。今季大会、最も油断ならないブラックホース。所持するアイテムも多く、どのような手が繰り出されてくるか、分かったものではない。
奔放に伸びた髪の下から除く、厚みのある眼鏡が彼の容貌を隠しているため、口元に浮かぶ笑みが何か企んでいるゆえの不敵な笑みに見え、サリアは身を硬くする。
「…………えっと、お名前は何だったかなぁ?」
「サリア・セレシード。属性は光です」
「あ、学院長のお孫さんだね! 初めて見たよ。贔屓目かと思ったけど、本当に綺麗な顔をしているね」
明るい声音で発せられた言葉に、サリアは顔を青くする。遅れて、その言葉を聞いていた試験を受けている生徒たちから陰口が飛んでくる。
「やっぱり、コネで学院に入ってんじゃねーか」
「本当に恥ずかしい子」
隠していたことが明るみになり、蔑みの対象となったサリアは、逃げ出したい気持ちを必死に堪えた。
仕方がない。自分が今まで無能だったことは周知の事実である。それを覆すには、この試験をクリアするしか手がない。逃げ出してしまえば、その手段を放棄したことになり、皆を認めさせることは、さらに困難になる。
熱くなる目頭を左腕の袖口で拭い、彼女は顔を上げた。余裕そうな顔には、実力の出来不出来にかかわらず、全力で答えようとする誠意がうかがえたように思えた。
「―――――行きます!」
宣言と同時に走り出し、同時に歌を紡ぎだす。口から飛び出すのは、周囲には意味を成さない音にしか聞こえないが、サリアの周りには元素が集まりだし、リオは警戒するように後ろに一度飛んで距離を取った。
「フィア セイ レイ ネゥ ツェ ……… 」
弾丸のように飛び出た光球が、リオめがけて突進していく。
「え、光? でも、これ風を纏って―――!」
驚きで無意識に呟いたリオの言葉が聞こえたが、サリアは続けざまに唱える。
「セイ リー レイ ツェ ネゥ シィ ……… 」
歌に反応したように、光球が一瞬小さくなる。リオがそれを視認してアイテムを使用しようと懐を探る。
「シィ ディア ソル ネゥ レイ ……… 」
しかしそれを取り出す過程で、彼女の口ずさむ歌が次の音を紡ぎ終わったことを耳にすると、顔を両腕で庇って後ろへ飛ぼうとする。――――だが、遅い。
それよりも早く彼の懐に潜り込んだ光球が、一気に爆散する。といっても、サリアはそれが身体的な致命傷にならないことは知っている。彼女の目的は別にあった。
(リオ先生の眼鏡の奪取が最善だけど、不可能なら魔法を眼鏡と瞳の間で発動させれば―――…!)
つまり、閃光による視界の一時的機能を奪う方法。サリアはこれを狙っていた。その理由は単純明快。眼鏡をかけている人物は多く存在するが、その何割かは特殊な例で裸眼でいられないためにかけていることが多い。その何割かの人物の中に、リオ・バルジェスターも含まれていたからだ。