聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
正式な特殊例の名は――――『視覚神経過敏症』。
視覚神経を通して、世界に存在する属性の元素が光って見える現象。それを常に視認している状況は、視覚神経に異常を来し、頭痛や眩暈を引き起こす。
それの防護策として一般的なのが、元素の光を大幅に遮断する特性を持った『精霊銀(ハルモニア)』という鉱物に属するとされる『ライトシェル』。
それを練りこんだ眼鏡は、光を遮断し常人の視界とある程度似通った視覚効果を装着者に与える。
サリアはそのことを、リオと対決する数刻前、とある男子生徒から教えてもらっていた。
『先生、眼鏡を外すの極端に怖がるんだ。なんでだろーって思って聴いたんだけど、どうもそれが原因みたい。魔法薬を作ってるとき、間違って爆発させてしまったりするだけで眼鏡越しでも頭痛を訴えるくらいだから、外したらヤバいんじゃないかな』
命を奪うまでには至らない、確実にリオにダメージを与えられる手法。自分の力量では真っ向勝負をしたところで敗北を見るのは必至。ならば、リオには悪いが、彼のその特殊な目を利用させてもらう。
そんな風に割り切る決断ができたのは、普段から人に甘すぎるサリアなら無理だ。だが、今まで誰にも自分の力を認めて貰えなかった鬱憤と、自分に可能性を見出してくれたアルジスに対しての戦果の報告をしたいという思いによって、そのような悪手を取ってでも試験の合格を捥ぎ取りたいという意思が強すぎともいえるものに育ったからに他ならない。
閃光の中、自分は光を拡散させるまでに目視していたリオの大体の位置に検討をつけ、走り出す。視覚が聞かない今、彼が蹲るなりなんなりしている可能性は高いとみての判断だ。
閃光が止んだ時、リオはなんとか立っていたが、もともと薬学に通じているだけの教師だ。戦闘に関しては、おそらく生徒より少し優れている程度の技術しかなかったのだろう。
眩暈でふらつく足元に申し訳ない思いが過ったが、サリアは懐に入れていた短剣を抜き放ち、その腹をそっと首筋にあてた。
「……… 降参、してください」
「……… まさか、僕の目のこと、知ってるとは思わなかったなぁ」
苦笑しながら、首筋から冷たいものが離れたのを感じたリオはぺたんと座り込む。風によって煽られた前髪から除いたその眼は、未だに光を取り戻さないのか、閉ざされたままだ。
「……… まぁ、もともとこの役割も毎年嫌がってサボってたから今年こそはってルチル先生に押し切られただけだし、僕の状態からして、もう無理だとあの二人も分かってるだろうしね」
後は二人に任せても大丈夫でしょ、と苦笑しながら、リオは続ける。
「サリアちゃん、法術は使える?」
「はい、魔術よりは得意です」
「なら、しばらく僕の治癒お願いしていいかな。生徒たちのために用意された治療班は全員生徒だし、情けない姿はここにいる生徒に見られただけで十分だよ」
教師のプライドがあるのだろう。リオの言葉は、情けなく震えていた。
「―――わかりました」
了承の声に、リオはふっと息を吐き出す。そして閉ざされた瞳から、一筋、涙が零れ落ちたのを知るのは、サリアだけだった―――…。
視覚神経を通して、世界に存在する属性の元素が光って見える現象。それを常に視認している状況は、視覚神経に異常を来し、頭痛や眩暈を引き起こす。
それの防護策として一般的なのが、元素の光を大幅に遮断する特性を持った『精霊銀(ハルモニア)』という鉱物に属するとされる『ライトシェル』。
それを練りこんだ眼鏡は、光を遮断し常人の視界とある程度似通った視覚効果を装着者に与える。
サリアはそのことを、リオと対決する数刻前、とある男子生徒から教えてもらっていた。
『先生、眼鏡を外すの極端に怖がるんだ。なんでだろーって思って聴いたんだけど、どうもそれが原因みたい。魔法薬を作ってるとき、間違って爆発させてしまったりするだけで眼鏡越しでも頭痛を訴えるくらいだから、外したらヤバいんじゃないかな』
命を奪うまでには至らない、確実にリオにダメージを与えられる手法。自分の力量では真っ向勝負をしたところで敗北を見るのは必至。ならば、リオには悪いが、彼のその特殊な目を利用させてもらう。
そんな風に割り切る決断ができたのは、普段から人に甘すぎるサリアなら無理だ。だが、今まで誰にも自分の力を認めて貰えなかった鬱憤と、自分に可能性を見出してくれたアルジスに対しての戦果の報告をしたいという思いによって、そのような悪手を取ってでも試験の合格を捥ぎ取りたいという意思が強すぎともいえるものに育ったからに他ならない。
閃光の中、自分は光を拡散させるまでに目視していたリオの大体の位置に検討をつけ、走り出す。視覚が聞かない今、彼が蹲るなりなんなりしている可能性は高いとみての判断だ。
閃光が止んだ時、リオはなんとか立っていたが、もともと薬学に通じているだけの教師だ。戦闘に関しては、おそらく生徒より少し優れている程度の技術しかなかったのだろう。
眩暈でふらつく足元に申し訳ない思いが過ったが、サリアは懐に入れていた短剣を抜き放ち、その腹をそっと首筋にあてた。
「……… 降参、してください」
「……… まさか、僕の目のこと、知ってるとは思わなかったなぁ」
苦笑しながら、首筋から冷たいものが離れたのを感じたリオはぺたんと座り込む。風によって煽られた前髪から除いたその眼は、未だに光を取り戻さないのか、閉ざされたままだ。
「……… まぁ、もともとこの役割も毎年嫌がってサボってたから今年こそはってルチル先生に押し切られただけだし、僕の状態からして、もう無理だとあの二人も分かってるだろうしね」
後は二人に任せても大丈夫でしょ、と苦笑しながら、リオは続ける。
「サリアちゃん、法術は使える?」
「はい、魔術よりは得意です」
「なら、しばらく僕の治癒お願いしていいかな。生徒たちのために用意された治療班は全員生徒だし、情けない姿はここにいる生徒に見られただけで十分だよ」
教師のプライドがあるのだろう。リオの言葉は、情けなく震えていた。
「―――わかりました」
了承の声に、リオはふっと息を吐き出す。そして閉ざされた瞳から、一筋、涙が零れ落ちたのを知るのは、サリアだけだった―――…。