聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
しかし、そんな彼女の意識を現実に引き戻すべく、ひゅっと頬に冷気を叩きつけた風によって少女は我を取り戻し、慌てて眠る麗人の肩へと手を伸ばす。
「あ、あの。起きてください……こんなところじゃ、風邪を引いてしまいます」
なるべく優しい口調でそう語りかけながら、少女は麗人を揺り起こすことを試みる。何度か繰り返していると、小さく呻く声が聞こえた後、ゆるゆると長い睫毛が持ち上がった。
「…………天使…?」
吐息混じりに零れた声は、掠れていたが耳障りの良い低い声だった。どこか恍惚とした表情でこちらを見詰めてくる彼のアメジストの瞳に、少女は目を奪われる。だが遅れて冷たい夜気が小さなくしゃみを促したために、すぐに現実に引き戻された。
そうして、じっと自分を見詰めてくる彼に、眉尻を下げながら少女は零した。
「……あの、天使じゃないの。――ここは、天国なんかじゃ、ないわ」
「――なら、此処は…」
「ゼヘレム魔法学院。………エスカリオーネ公国領に建てられた、魔法使い育成学校よ」
どこか呆然とその言葉を聴いていた彼は、やがて意識がはっきりしてきたのか身を起こした。流石に寒いだろうと傍らにあった毛布を差し出そうとした少女は、遅れて首許に当てられた冷たい感触に身を凍らせる。
「あ、あの。起きてください……こんなところじゃ、風邪を引いてしまいます」
なるべく優しい口調でそう語りかけながら、少女は麗人を揺り起こすことを試みる。何度か繰り返していると、小さく呻く声が聞こえた後、ゆるゆると長い睫毛が持ち上がった。
「…………天使…?」
吐息混じりに零れた声は、掠れていたが耳障りの良い低い声だった。どこか恍惚とした表情でこちらを見詰めてくる彼のアメジストの瞳に、少女は目を奪われる。だが遅れて冷たい夜気が小さなくしゃみを促したために、すぐに現実に引き戻された。
そうして、じっと自分を見詰めてくる彼に、眉尻を下げながら少女は零した。
「……あの、天使じゃないの。――ここは、天国なんかじゃ、ないわ」
「――なら、此処は…」
「ゼヘレム魔法学院。………エスカリオーネ公国領に建てられた、魔法使い育成学校よ」
どこか呆然とその言葉を聴いていた彼は、やがて意識がはっきりしてきたのか身を起こした。流石に寒いだろうと傍らにあった毛布を差し出そうとした少女は、遅れて首許に当てられた冷たい感触に身を凍らせる。