聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
 しかし使い慣れないからか若干言い回しが怪しくなり、少女の首が小さく横に傾いだ。


「……混乱しているの?」


 だが好意的――――とは言えないが、とりあえずそんな解釈をした少女に、少年は曖昧に笑って返答を求める。


 少女はしばらく少年を見つめていたが、やがてそっと口を開いた。


「……あなたを怒鳴りつけた後、あなたが謝罪しながら倒れて―――驚いて駆け寄ったら腹部が傷ついていたのに気がついたの」


 慌てて治療を施したが、それでも油断を許さないその傷は、少女が癒せるほど浅いものではなかったらしい。だが、深夜に人を叩き起こしに行くほどの時間は少年の容態からして無理だと判断した少女は、一晩中出来うる限りの治療をすることを選んだ。


 しかし少しして、容態が安定してきた頃合に少年に引き込まれて寝台に飛び込み――――今の状態になった、と聞いたところで、少年はもういいと少女がそれ以上言葉を続けるのを制した。


 ………うら若き乙女―――しかも見知らぬ他人―――に治療を受けたのはまだいい。だが、彼女を引き込み、勝手に抱き寄せぬくぬくと眠っていた自分に自己嫌悪する。どうしよう、なんだか申し訳ない。


 悶々と考える少年に、少女は薄く笑う。その笑みからは、昨日のような怒りはまったくなく、思わず安堵の息をついて方をなで下ろした。
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