聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
「今日はどうだったんだ?」
具がたっぷり盛り込まれたパンの欠片も具も零さないよう慎重に食べながら、膝に載せて読んでいた、サリアが魔法院の図書館から借りてきた本をきりのいいところまで読み終えたらすぐぱたりと閉ざし、残りの具沢山なパンを口に詰めてから立ち上がったアルジスがサリアの方へと歩み寄る。
「今日は、魔法史と魔法薬学、魔力向上の訓練を受けたの」
笑いながら教書を広げ始めたサリアに、アルジスがふっと笑う。
「なら、魔法史の復習でもしようか。分からないところがあればいくらでも教えるから」
「うん」
頷きを返して教書を広げたサリアの後ろから、アルジスの手が伸びる。
「それで、どこか分からないところは?」
教書の上に手を滑らせるアルジスに、サリアはひとつの項目を指し示す。
「今日はヴェーネ国建立から七百五十年後の時代で、海を隔てたフィルネシア王国と国交を始めた頃なの。ヴェーネ王国はグラムド陛下、フィルネシア王国はディシオス陛下の時代ね」
「………グラムド陛下の息子のヴァルス殿下にディシオス陛下の末の娘であるマーテル姫が嫁いだことから始まった国交、だな」
まだゾフィア帝国との戦いの爪痕の残る中、当時19歳のヴァルス陛下が早期の復興を望む中、宰相であるユアンとレオンハルトの交渉にて決まった政略結婚。
「本来なら21歳のレイシェル姫との婚姻だったが、彼女が病に倒れたことから、急遽14歳のマーテル姫に白羽の矢があたった」
「……え、そうなの?」
「その数ヶ月後にレイシェル姫の病が治り、直後に彼女が自国の貴族の男に嫁いでいることから、どうも結婚を嫌がった彼女がヴァルス陛下との婚姻を蹴ったという推測もされているからな。ある意味黒歴史とも言える真実を伏せるのは当然だ」
ならどうしてそんな重要機密とも言える史実のことを知っているのか、と聴きたいが、彼にそれを尋ねたところで返答が帰ってくるとは思えなかった。―――彼は、自分のことを、あまり話したくないようだから。
具がたっぷり盛り込まれたパンの欠片も具も零さないよう慎重に食べながら、膝に載せて読んでいた、サリアが魔法院の図書館から借りてきた本をきりのいいところまで読み終えたらすぐぱたりと閉ざし、残りの具沢山なパンを口に詰めてから立ち上がったアルジスがサリアの方へと歩み寄る。
「今日は、魔法史と魔法薬学、魔力向上の訓練を受けたの」
笑いながら教書を広げ始めたサリアに、アルジスがふっと笑う。
「なら、魔法史の復習でもしようか。分からないところがあればいくらでも教えるから」
「うん」
頷きを返して教書を広げたサリアの後ろから、アルジスの手が伸びる。
「それで、どこか分からないところは?」
教書の上に手を滑らせるアルジスに、サリアはひとつの項目を指し示す。
「今日はヴェーネ国建立から七百五十年後の時代で、海を隔てたフィルネシア王国と国交を始めた頃なの。ヴェーネ王国はグラムド陛下、フィルネシア王国はディシオス陛下の時代ね」
「………グラムド陛下の息子のヴァルス殿下にディシオス陛下の末の娘であるマーテル姫が嫁いだことから始まった国交、だな」
まだゾフィア帝国との戦いの爪痕の残る中、当時19歳のヴァルス陛下が早期の復興を望む中、宰相であるユアンとレオンハルトの交渉にて決まった政略結婚。
「本来なら21歳のレイシェル姫との婚姻だったが、彼女が病に倒れたことから、急遽14歳のマーテル姫に白羽の矢があたった」
「……え、そうなの?」
「その数ヶ月後にレイシェル姫の病が治り、直後に彼女が自国の貴族の男に嫁いでいることから、どうも結婚を嫌がった彼女がヴァルス陛下との婚姻を蹴ったという推測もされているからな。ある意味黒歴史とも言える真実を伏せるのは当然だ」
ならどうしてそんな重要機密とも言える史実のことを知っているのか、と聴きたいが、彼にそれを尋ねたところで返答が帰ってくるとは思えなかった。―――彼は、自分のことを、あまり話したくないようだから。