聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
 ならば大人しく彼の知識を存分に使って勉学に励もうと考えて、サリアは教書に目を落とす。


「それで、マーテル姫とヴァルス殿下の婚姻は?」


「無事に遂行されたよ。しかも、彼女たちの間には五人もの子が生まれている。生涯ヴァルス陛下は后であるマーテル様以外に娶らないと妃が暮らすための後宮の維持費を抑えて縮小化した。本当は潰したかったらしいが、どうも貴族たちに阻まれたようだな」


 そうか。夫婦仲は良好だったのか。嬉しくなって笑みが零れたサリアに、アルジスが苦笑する。


「……過去の歴史ひとつで、そんな嬉しい顔をするとはな」


「だって……」


 ふわりと微笑むサリアが紡ぐ言葉に、アルジスは目を丸くする。


「人の幸せだったということを知れば、自分も幸せな気分をもらえるから」


「……たかが昔の政略結婚ならぬ恋愛結婚にか?」


「アルジスにとってはそうだとしても、私にとってはたかがじゃないもの!」


 むっとしたように頬を膨らませる少女に、アルジスが瞳を細めて笑う。


「……そうか」


 面白くて仕方がないとでも言うようにくつくつと笑うアルジスに、サリアが頬をますます膨らませたが、それでもアルジスの笑い声は止まない。


 そんなアルジスの反応になんだか自分が物凄く恥ずかしいことを言ったような気がしてきて、顔を歪めたサリアは、それに気づいたアルジスに頭を軽く叩かれる。


「………笑って悪かった。…でも、サリアといると、飽きないな」


 そう言って笑いながら、アルジスは続きをしようかとサリアを促す。
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