聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
「……随分あるな」


「……これは、貰ったもの、だから」


 少し話しづらそうな口ぶりで、サリアは零す。


「昔から、何故かこういった宝石とか服とかを貰うの。使えないからいらないと言っても、押し付けられてしまって。……父に言うと、貰えるものは貰っておけばいいって流されてしまうし……」


 心底困ったような表情をするサリアを見つめ、彼女の手の中の宝石を見つめ……。アルジスはひとつの結論にたどり着く。


(………振り向かせたいから、貢ぐのか)


 言葉にはしなかったが、きっとすべて男性からのプレゼントであろうと判断したのは、彼女の容姿の美々しさを目の当たりにしているからだ。しかも、性格も傲慢なところはなくむしろ穏やか、人の言葉を素直に聞き入れる純粋さ、他にも諸々の理由があるが、サリアを理想とする異性は多いはずだ。


 あまり使いたくないといった風情のサリアだが、一ヵ月しかない期限を鑑みると、そんなことにこだわっている場合ではないだろう。


「………時間がないんだ。少しでも技術の訓練をするために、魔法を使えない可能性は消していくしかない」


 促せば、彼女は数秒躊躇ったが、ついには宝石に手を伸ばす。


「……俺の言葉を復唱しろ」


「う、うん」


 頷いたサリアに、アルジスはそっと言葉を紡ぎ始める。
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