聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
「とりあえず。此処から離れないか。落ち着いて話も出来ない」


 そう言ってのけたナロンに頷き、フィニアは口を開く。


「なら、私の部屋に行きましょう。昼間の間は、お互いの寮への行き来は許されているし、人目もなく落ち着いて会話できるから」


「そうだな。一番妥当な判断か」


「え? それならサリアの部屋の方がいいんじゃない? 一番広いし」


 フィニアの提案に頷くナロンに、異論を唱えたのはエミスだ。サリアは部屋にアルジスがいるので思わず青ざめたが、エミスに対するフィニアの応答は冷ややかだった。


「………エミス、考えてもみなさい。サリアの部屋はどこかの魔法を習いに来た馬鹿貴族から贈られてきたもので溢れかえってるの。そんな中にナロンやヴォルやフェイトを招いたところで、居心地が悪いに決まってるはずよ」


 馬鹿貴族は酷いのではと思うものの、それを聞いた男子の反応は苦いものを食べたような様子だった。


「…………まあ、ファーストとはいえ、サリアは人が好いから世話焼いて、自分に好意を寄せてくれるって思ったどっかの馬鹿がたくさんいるのは知ってるけど」


「………サリア、彼らから貰ったもの、使ってたんだね……」


「……父さんが、貰えるものは存分に使えって言うから」


 苦笑するヴォルとフェイトに、サリアはそう応える。すると、納得したように頷いたふたりは、続けて言葉を紡いでいく。


「あぁ。なるほどね。サリアの意思は関係なく、あの人がいろいろと使っちゃうのか」


「あの親馬鹿の代表といえる人が、娘に上等のものを使わせようとするんなら、すっげぇ納得」


 ……父親が貰ったものを使って自分の部屋を飾ったことは一言も言っていないのだが、それを察してしまったふたりの勘に、思わず感嘆してしまう。
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